INTERVIEW ISSENKA

「抹茶は、もっとおいしい。」

「抹茶は、もっとおいしい。」パティシエとして、抹茶好きとして、いつもそう思っています。 巷に溢れかえる抹茶風や抹茶味ではなく、一切妥協のない本物の抹茶スイーツを創り、届けたい。その想いから、ISSENKAというブランド、「柳緑」(りゅうりょく・抹茶のテリーヌ)と「花紅」(かこう・ほうじ茶のテリーヌ)は生まれました。

京都出島園「抹茶」との出会い

ISSENKAでは単一品種で茶葉が持つ本来の個性を、抹茶テリーヌとして楽しんでいただくという提供の仕方をしています。この考え方は私が抹茶テリーヌの試作をするなかで、さまざまな種類の抹茶を使い偶然たどり着いた考え方でした。

日本各地の抹茶を探す日々の中で「これはテリーヌに合う!」そう思えるものがありました。そしてその抹茶のブレンド内容を聞くと「さみどり」という単一品種のものでした。自分が今まで試してテリーヌと合うと感じた抹茶が「ごこう」と「さみどり」、いずれも単一品種でブレンドされていないもの。偶然なのだろうか・・・。それを確かめるために単一品種の抹茶に絞って探しはじめることになります。

単一品種の抹茶を調べると、出てくるほとんどが京都の抹茶でした。抹茶=京都という認識があったので、今まであえて京都の抹茶を調べてきませんでした。そのほうが面白いのではないかということや、地元に近い狭山のものを使ってみたいということがあったからです。
しかし、様々な抹茶を試してきて私の考えは変わっていきました。おそらく油脂分の多いテリーヌショコラに合う抹茶はバランスのとれている抹茶よりも、単一の個性が突き抜けているほうが合うのではないか。地域のこだわりよりも品種に着目するほうが面白いのではないかと。
そしてたどり着いた京都出島園。ホームページの内容を見て驚きました。自分がテリーヌを試作する中で感じてきたものがそこに書かれていたのです。すぐに自分がやりたいことを伝えるメールを送りました。
するとすぐに返事が来て、単一品種の個性に着目してもらえて嬉しい、ぜひ使ってみて欲しいという内容でした。ようやく頭に描いていたものを形に出来る!!と、本当に嬉しかったのを今でも覚えています。

想像を超えるお茶栽培の奥深さ

その年の5月末、ついに出島園に行く機会が出来ました。実際に園主の出島さんに会うのは初めてでした。
出島さんはとても気さくで、何より良いものをつくりたいという気持ちが強い情熱的な方でした。こだわってものづくりを続けていると、こういった素敵な出会いが巡ってくるのだなと改めて思いました。
実際に抹茶の原料である碾茶を栽培している茶畑をみるのは初めてでしたが、出島園のとり組み方法にあらためて驚きを感じさせられました。単一品種ということだけでなく、栽培の場所も様々なところにあるのです。丘の上のほうや川の近くであったり、それに応じて土の質感も密度がしっかりとした土だったり、砂のような質感に近いものだったりと。環境に応じての茶葉の味わいの違いにも追求していました。細かくいえば肥料の種類や効かせかた、茶葉の摘み取りのタイミングなどいろいろとあると思います。
なかなか地域環境がもたらす特徴というのは掴みにくいものがありましたが、品種ごとに違う畑で栽培されているとそれをしっかり掴むことができます。そういった意味でも実際に茶園を訪れて品種ごとの抹茶を味あわせていただく機会が出来たことは、とても大きなきっかけにもなり自分のやりたい方向性の自信にもなりました。

品種の選抜

出島園では様々な品種を栽培していますが、ISSENKAではその中でも抹茶テリーヌに合うものを選抜して使っています。
抹茶を普通に飲むときはお薄で点てて光るものやお濃茶で点てて光るものがありますが、テリーヌショコラは油脂分が多いのでそれに負けない個性と味、旨味をを持ちあわせたものを選んでいます。もちろん年々によって一番良いものは変わってくると思うので、スタートの段階ではということになります。
「さみどり」「うじひかり」「やぶきた」
抹茶テリーヌではこの三種類を使用しています。
安価な抹茶の渋味だけを売っているようなものとは違い、抹茶の香りと甘味、そして旨味も感じていただけるように分量も何度も調整しました。
「さみどり」のふくよかな香りと強い旨味、まろやかな後味
「うじひかり」の繊細で鮮やかな香り、さわやかな後味
「やぶきた」の力強くお茶らしい香り、ほどよい渋味を感じさせる後味
上質な茶葉から生まれる抹茶はそれぞれにしっかりと個性を持ち合わせています。
品種ごとの味わいをしっかりと感じてもらえる三種類を選抜しました。

抹茶への想い

今まで産地の違いで、抹茶スイーツを出してるのは見かけたこともあります。ただそれに対抗しようと思ったことは1度もありません。様々な抹茶を試した経験のなかでたどり着いたのが茶葉の品種の食べ比べだったのです。そして出島園との出会いがそれを形にさせてくれました。
シングルオリジン抹茶なので、出来の良い年、いまいちの年もあると思います。ですが自然の作物なので、当たり前なのです。一生懸命に育てても近年の異常気象では苦労がたえないでしょう。そういうこともひっくるめて茶葉の個性と向き合うということは面白いのです。
抹茶スイーツのブームというものは抹茶の認知度を上げることに貢献しました。
しかし、その反面で安価な抹茶とも呼べないレベルのものを使った商品が抹茶スイーツとして売られているのも事実だと思います。
リーズナブルな商品を否定するつもりはありません。買いやすい価格帯の商品ももちろん必要だと思います。ただ、粉末茶のようなものと本当の抹茶がいっしょくたにされてしまうことはよろしくないと思います。
本物の美味しい抹茶を飲んで欲しいと思い、そこに情熱をかけて育てている生産者の方々もたくさんいます。なので私はその想いに恥じないよう抹茶・ほうじ茶スイーツをつくっていきたいと思っています。スイーツというものを通して本物の抹茶にも興味をもって飲んでもらえたらなとも思っています。